話し方講座の受講者さんに「自分が人前で上手に話せないのはなぜだと思いますか?」と聞くと、「緊張して自分が何を話しているのか分からなくなる」「緊張して言葉がうまく出てこない」「緊張して声が裏返るのが気になる」という答えが返ってきます。
「緊張するから」上手に話せない、ということを自分でも分かっています。他にも、頭が真っ白になる、言葉につまる、手足が震える、なども緊張からくる症状です。
問題は、一度緊張からくるこれらの症状を経験すると「次も失敗するだろう」「自分はダメな人間だ」と思ってしまうことです。人前で話すと緊張する=失敗する、とインプットされてしまいます。
ビジネスでもプライベートでも、私たちは人との関わりの中で生きているので、人前で話す機会を100%避けることはできません。そこで、今回は人前でも緊張せずに上手に話せるようになる方法を紹介します。
具体的な方法の紹介に入る前に、あなたが克服したいと思っている「緊張」は必ずしも悪ではないことを説明します。そもそもなぜ緊張するかと言うと、人前で話すことが自分にとって特別なことであったり、慣れないこと、非日常的なことだからです。
非日常的なことに対しては誰もが緊張状態になります。これは、生命を守る本能です。例えば緊張して体がこわばるのは、不意に襲われてもかたい筋肉でダメージを和らげるためです。適度な緊張は神経を研ぎ澄ませ、実は普段以上に力が働く状態です。緊張を過剰に恐れる必要はないのです。
本番に備えて、自分は何を伝えたいのかをしっかりまとめていますか?それを伝えるための資料は効果的でしょうか?何度も見直す準備が必要です。
また、多くの人は資料や原稿の準備はするものの、スムーズに話せるようになるための練習まではしていません。自分が書いた原稿だとしても練習しなければ、途中でつっかかることがありますし、初見で本番に立つと最初から最後まで原稿を見ていないと不安な気持ちになります。
準備して、それを使って練習を重ねることで初めて「本番でも大丈夫」と思えるようになります。準備や練習はとても地味な作業です。やらない人が多いですが、必要不可欠です。魅力的なプレゼンでも知られたアップルの創業者スティーブ・ジョブズでさえも、本番前には練習、リハーサルに何時間もかけたことは有名なエピソードです。
緊張しているあなたに「普段通りやれば大丈夫だよ」と声をかけてくれる人がいるかもしれません。その方はあなたの緊張をほぐすために声をかけてくれていますが、人前で話すのはそもそも慣れない特別なことで、普段通りにやってもうまくはいきません。普段通りやってうまくいくのは、ある程度経験を積んだ人の場合です。
まずは、人前で話す機会や本番は自分にとって非日常であることを認識しましょう。いつも通りの自分で向かうのではなく、本番用に自分を作り上げるのが大切です。どうしたら本番用の自分が作られるかというと、①の準備と練習です。
ポイントは練習を本番さながらにすることです。最初から最後まで本番を意識した声の大きさ・トーンで通して練習することです。時間を計るとさらに良いです。これで本番用の自分が作られます。繰り返し練習することで非日常的なことに少しずつ慣れて、本番の緊張が和らぎます。
短いスピーチも長いプレゼンも、最初と最後が肝心です。「つかみ」と「まとめ」で何を話すかきちんと決めて、本番はあえてアドリブなど入れずにそのまま話すようにしましょう。
「つかみ」で聞き手の心を惹きつけることができたら、そのまま好印象を持って最後まで聞いてくれます。そして、最後がビシッと決まると格好がつきます。途中でどんなに良い内容で話していても、尻すぼみになると説得力に欠けます。
どんな風に話し始めるか?結論は何で、どこに話を持っていってどんな風にしめくくるかは一番に考えてください。
複数人の前で話すとき、きっとあなたの話に興味を持って聞いてくれる人がいます。その人はあなたの味方で、ニコニコしながら聞いているかもしれません。熱心にメモを取りながら聞いてくれるかもしれません。大きく頷きながら聞いてくれるかもしれません。
話しながら味方を見つけ、その人にしゃべる気持ちで話してみてください。 落ち着きを取り戻し、リラックスした状態で話せるでしょう。
「上手に話さなきゃ」という気持ちは緊張を大きくします。この気持ちに縛られていると、一回でもつっかかったらダメ、一箇所でも声が裏返ったらダメ、ちょっとでも言葉につまったらダメ、たった3秒でも間があいたらダメ…ということになってしまいます。
つっかかった瞬間に「しまった、どうしよう」と動揺し、ますます緊張していきます。でも、最初から最後まで一回も…というのはプロのアナウンサーでもなかなか難しいです。
よく考えてみてください。あなたが話し上手だなぁと思う人は、どんなときも噛まない人ですか?間をあけずにスラスラ話せる人ですか?違いますよね。要は、伝えたいことを伝えられればそれで良いのです。
多少つまったとしても、一生懸命伝えようとする姿が大切です。誠実な姿は必ず聞き手に伝わり、心を動かし感動させることができます。
「緊張して『あがって』いる、ヤバイ…」と意識すると、負のマインドに包まれます。その場の雰囲気や環境に振り回されて実力を発揮することができません。そこで、ちょっとだけ考え方を変えます。
緊張状態は普段よりも神経が研ぎ澄まされて体が敏感になっています。「集中力が『あがって』きた、よし!」と、ポジティブなマインドで本番に向かってください。
あなたがリラックスできるのはどんな時ですか?あたたかい飲み物を口に一息つく時、深呼吸した時などいろいろあると思います。本番前にできる自分がリラックスできる方法をいろいろ試しながら見つけておくのがお勧めです。
ちなみに、私は本番前に手のひらに「人」という字を書いて心を落ち着けています。小さい頃誰かに教えてもらいましたよね。手のひらには心を落ち着けるツボが実際にあり、「人」と書くことはそこを刺激することになるので、迷信とは言い切れない面があります。
アナウンサーデビューして間もない頃から毎回やって本番に立ってきました。取り返しのつかない大きな失敗は一度もしたことがなく、「これをやったら大丈夫だ」と私の中で安心材料になっています。本番に慣れた今でも毎回やっています。
他にも、必ずのど飴を口にする、発声練習を兼ねて必ず歌う歌がある、など人によって様々考えられます。自分はこれをやったら大丈夫、これをすると落ち着くというものを見つけておきましょう。
今は人前で話すのが苦手だと思っていても、これらの方法を実践することでやがて上手に話せるようになります。話す機会があれば、断らずに積極的にチャレンジしてください!本番があるから準備・練習します。そして本番を迎える。この繰り返しでしか緊張を克服し、話し上達は望めません。
そして、あなたの話に興味を持って聞いてくれることに気づくととても嬉しいです。話すこと、伝えることは嬉しいと実感できる日が早く来ることを願っています。